Chapter 5
軽さと強さを兼ね備えた、新しいグレード23 チタン製バチスカーフの3つのモデル
世界で最も有名な建築家のひとり、フランク・ロイド・ライトは、当時としては画期的な自然と調和する建築様式についてこう語っています。「この自然な建築が追求するのは...(中略)...軽さと強さを完全なバランスでロジカルに両立させ、新たな全体性を形成することである。」
もちろん、ここで彼が言っているのは建築設計のことですが、この考え方は時計製造におけるチタンの採用の話に置き換えても、ぴたりと当てはまります。軽さと強さ。さらに、美しさ、耐腐食性、非アレルギー性をもたらす素材。それがチタンです。そうした特徴を知った上でなければ、3つの新しいグレード23チタン製バチスカーフとそれらに装備されるチタン製ブレスレットを語ることはできません。「オートマティック」、「コンプリート カレンダー ムーンフェイズ」、「フライバック クロノグラフ」は他の素材を用いたバージョンで登場し、何年も前からすでにフィフティ ファゾムスコレクションにラインナップされていましたが、チタン製になったことで、この3つのモデルにまったく新しい個性が与えられました。
バチスカーフ オートマティック
オートマティックは、現代のバチスカーフ ファミリーの最初のモデルで、時針、分針、大きな秒針、日付表示を備えています。カラーリングには、グレード23チタン製シリーズの他の2つのモデルと同様に新しい配色が採用され、これまでのバージョンとはまったく違った雰囲気に仕上がっています。垂直方向の繊細なサテン仕上げが施されたダイヤルとセラミック製逆回転防止ベゼルはグレーで統一され、ケースとブレスレットのサテン仕上げのグレーが、ダイヤルの色と柔らかなコントラストを生み出しています。先行バージョンと同様、このモデルにもブランパンの自社製キャリバー1315が搭載されています。他のダイバーズウォッチのムーブメントとは一線を画すキャリバー1315は、シリコン製ヒゲゼンマイを備えたフリースプラングテンプ、3つの香箱、5日間のパワーリザーブ、繊細なソレイユ仕上げと丁寧なアングラージュ(面取り加工)、大型の石NAC(プラチナ合金)コーティングを施したゴールドの自動巻上げローターといった優れた特徴を備えています。非磁性のシリコン製ヒゲゼンマイにより実現する高い耐磁性により、シールドが不要になるため、クリアなサファイア製ケースバックから内部機構を眺めることができます。
バチスカーフ コンプリート カレンダームーンフェイズ
1970年代、スイスの時計産業全体が危機的状況に陥りました。アジアで生み出された安価なクォーツ時計の台頭によって、高級な機械式時計は消滅の危機に追い込まれたのです。時計メーカーは機械式時計の価格を下げ、複雑機構を排除することでクォーツに対抗しようとしましたが、その戦略は失敗に終わりました。一方、ブランパンはそうした状況を別の視点から捉えていました。機械式時計は、芸術様式のひとつであり、手仕事と伝統へのオマージュであると考えていたブランパンは、時計を簡略化するのではなく、複雑機構を再び取り入れました。その第一弾が、日付、曜日、月の表示にムーンフェイズ表示を組み合わせたコンプリートカレンダーでした。歴史の原点に立ち返り、伝統的な高級時計の美しさと魅力を蘇らせることで、機械式時計製造を復活させたのです。1980年代初頭のブランパンの時計を目にした人々は、手仕事による美しいタイムピースは、工業的なクォーツ時計とはまったくの別物であるということを理解し始めました。ブランパンのカレンダーとムーンフェイズは瞬く間に成功を収め、スイスの時計業界に瀕死の状態から脱出する道を示しました。1980年代のブランパンのスタイルはブランドの象徴となり、このモデルを含むフィフティファゾムス コレクションをはじめ、各コレクションにしっかりと受け継がれています。
リング状に並ぶ数字と大きな針で示される日付、曜日と月を示す小窓、6時位置に配されたムーンフェイズ表示という、現在ではブランパンのシグネチャーとなっているコンプリートカレンダー ムーンフェイズのレイアウトは、バチスカーフにも採用されています。このカレンダーとムーンフェイズの複雑機構には、1956年の発表以来引き継がれてきたバチスカーフならではのダイバーズウォッチの精神が色濃く反映されています。新しいチタン製バージョンのカラーパレットは、オートマティックと同じで、ダイヤルもセラミック製の逆回転防止ベゼルもグレーで統一されています。ダイヤルには、オートマティックの垂直方向のパターンとは異なる、繊細なサンバースト仕上げが施されています。
ムーブメントには、フリースプラングテンプとシリコン製ヒゲゼンマイ、2つの香箱を備えた自社製キャリバー6654を搭載。パワーリザーブは72時間。また、カレンダーコンプリケーションの安全性の高さもブランパンならではの特徴です。時計の世界では一般的に、日付が自動変更される時間帯にカレンダーの手動調整を試みると、カレンダーの複雑機構を損傷させるおそれがありますが、キャリバー6654にはそのリスクがありません。自動変更の途中で手動調整を行うと自動変更用の部品が解除される仕組みによって、ムーブメントを損傷するリスクが排除されています。
バチスカーフ フライバック クロノグラフ
クロノグラフ機能は、もともとはダイビングの世界にはないものでした。その理由は、クロノグラフの動作の開始、停止、またはゼロの位置に戻す操作に使うプッシャーに防水性能がなかったからです。ですが、水中時計にクロノグラフを採用できないという事情があったからこそ、ブランパンの当時の共同最高経営責任者ジャン=ジャック・フィスターは潜水時間を計るための機能の設計に着手し、初代フィフティ ファゾムスの核となる画期的な発明のひとつ、回転ベゼルを生み出すことができたのです。
もちろん現在は、密閉構造のクロノグラフプッシャーが発明され、ダイビング用クロノグラフの製造が可能になっています。ダイビング用クロノグラフは、2007年にフィフティ ファゾムス フライバック クロノグラフに搭載され、初めてフィフティ ファゾムス コレクションに登場。その後、バチスカーフ フライバック クロノグラフにも採用されました。この時、ブランパンのCEO、マーク A. ハイエックは、クロノグラフが、現代の密閉性のあるプッシャーの登場により、水中での使用に完全対応していることが絶対条件であるフィフティ ファゾムス コレクションにふさわしい機能になったと述べました。
ダイヤルとセラミック製の逆回転防止ベゼルのカラーには、新しいチタン製のバチスカーフ フライバック クロノグラフを特徴づける色であるグレーが採用されています。他のチタン製モデルと同様、こちらのダイヤルにも軽やかなテクスチャーの仕上げが施されており、メインのダイヤルにはソレイユ装飾、サブダイヤルには繊細なサーキュラーパターンが用いられています。
セラミック製とスティール製の先行バージョンと同じく、自動巻ムーブメントには自社製キャリバーF385を採用。周波数は5Hz。これは、1秒を10等分するためクロノグラフに最適な周波数です。ブランパンのムーブメントの慣例通り、F385もフリースプラングテンプとシリコン製ヒゲゼンマイを備えています。キャリバー名の「F」の文字は、フライバック クロノグラフであることを示しています。通常のクロノグラフでは、ストップ、リセット、リスタートとボタンを3回押す必要がありますが、フライバック機能があれば、4時位置にあるボタンを1回押すだけで、ストップ、リセット、リスタートの操作が一度に実行できます。
ブレスレット
新しいチタン製バチスカーフの3つのモデルすべてに、グレード23チタン製ブレスレットのオプションが用意されています。デザインはブランパンの71ブレスレットのクラシックなスタイルを踏襲。1990年代初頭に登場した「71」は、手首にしなやかにフィットし、着け心地が良いことで知られています。新しいチタン製バージョンでは、すべての面にきめ細かなサテン仕上げが施されています。ブランパンでは、ブレスレットのコマを連結させる新システムを導入しており、各コマは内側のくぼんだ部分で固定されています。このくぼんだ部分がブレスレットのサイズ調整を容易にする役割を担っています。特殊な工具は不要で、くぼみのネジを一般的なスクリュードライバーで回し、コマを取り外したり追加したりすることで、ブレスレットの長さを調節することができます。