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Chapter 5

ラシエット シャンプノワーズ

新鮮、ピュア、濃厚という言葉に新たな概念をもたらしたランスの名店

このチャプターの著者

ジェフリー・S・キングストン

このチャプターの著者

ジェフリー・S・キングストン
ラシエット シャンプノワーズ
ラシエット シャンプノワーズ
Issue 18 Chapter 5

Aワイン造りと同様、シャンパーニュ地方の料理も 進化を遂げてきました。

「革命」という言葉は、激しい感情を伴う強い言葉で す。フランスの革命指導者ロベスピエールやロシアの 左派ボルシェヴィキ、キューバの革命家チェ・ゲバラ などを連想させます。慈悲も容赦もない厳格さ、過酷 さ、残虐、破壊といったイメージです。では「穏やかな 革命」というのはありえないのでしょうか。既存のもの を寛容に受け入れ、称賛と敬意を示しながら、歴史や 伝統と共存できる新たなアイデアを打ち出す革命で す。これまでのイメージにとらわれず、あなたの辞書の 「革命」のページに、この穏やかな革命という概念を 追加してみてください。この新しい概念が頭にあると、 いまシャンパーニュ地方で起きているワインと食の 革命を理解しやすくなるでしょう。シャンパーニュの 「穏やかな革命」。その立役者となるのが、この地方 で最も名高いレストラン、ラシエット シャンプノワーズ です。

伝説によれば、シャンパンは、ドン・ピエール・ペリニ ヨン(1638~1715年)というベネディクト会の修道士に よって発明されたとされています。ペリニヨンは、ワイン 造りにおいて数々のイノベーションを起こした人物で すが、当時ワインと言えば、泡のないスティルワインの ことを指していました。実際、ドン・ペリニヨンが没頭し ていたのはスパークリングワインの醸造などではなく、 むしろその反対のものでした。彼の最大の発見は「泡 が出ないようにする方法」だったのです。有名なシャン パンの製法である「メトード シャンプノワーズ」が開発 されたのは、ドン・ペリニヨンがこの世を去ってからお よそ1世紀半後、すなわち1800年代半ばに入ってから のことでした。そんな誤った歴史認識が広まっているも のの、スティルワインからスパークリングワインが生ま れたことで、ワイン醸造に大きな変化が起きたのは事 実。その変化をきっかけに、シャンパンは突如、ワイン の中でも注目される存在となり、祝福やラグジュアリー の象徴として卓越した地位を築くこととなったのです。 また、この変化を機に、多くのグランメゾン(大手ワイン メーカー)も台頭するようになりました。その長いリスト には、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコ、テタンジェ、 ローラン・ペリエ、ロデレール、ボランジェ、さらにはク リュッグ、ポル・ロジェ、ドゥーツ、パイパー・エドシック など、誰もが知る有名ブランドが名を連ねています。

これらのグランメゾンは、成功と優位性を獲得するに つれ、保守的な姿勢を取るようになり、どのメゾンも自 社のスタイルに固執するようになっていきます。そうし た大手メーカーに同調し、この地方の料理人たちも、 築いた地位を損なわないよう、頑なに伝統を守るよう になっていきました。

小さな個人経営のブティックワイナリーの生産者たちが、 静かにひっそりと花開き始めたのは、10年ほど前のこ と。そこで誕生したのが、個々の畑の特徴を反映させ た職人による手造りのシャンパンです。大量生産を行 うグランメゾンでは成し得ない、あるいは伝統を守る

リ ド ヴォー、 パセリのクリームを添えて。

リ ド ヴォー、 パセリのクリームを添えて。

ラシエット シャンプノワーズ

ミシュラン三つ星とゴー・エ・ミヨー19.5ポイントという、 世界レベルの評価を獲得しています。

ためにあえてやろうとはしない製法で作られます。強い 個性を打ち出す、この大胆なワイン造りによって、シャン パンの可能性は大きく広がっていきました。もちろん、 グランメゾンは相変わらず素晴らしいキュヴェを愛 好家たちに届けていますが、現代のワイン通たちは、 ぶどうの品種、グラン・クリュ、プルミエ・クリュといっ た、その地域の畑の格付け、生産された村、醸造家ご とのスタイルなどにもこだわるようになっています。これ らは、グランメゾンの世界ではあまり語られない概念 ですが、この部分がまさに、伝統と共存する「穏やかな 革命」なのです。

ラシエット シャンプノワーズのオーナーシェフ、アルノー・ ラルマンの料理には、あらゆる面で、今日のシャン パーニュ地方のワイン造りと同じ多様性や広がりが あります。「シャンパーニュ地方の高級料理」を定義し てきた権威や形式に縛られるのではなく、ランスの料 理に、これまでにない新鮮さやピュア感、濃厚さをも たらしたのです。シャンパーニュの料理界を一変させ たと言っても過言ではありません。もちろん、敬意を 込めて、穏やかに。つい10年前まで、ランスや近郊の 町エペルネーの高級レストランの料理と言えば、あく までもシャンパンの引き立て役、という印象でした。 シャンパンの帝王クリュッグから主役の座を奪おうなど という大胆なことを考える人は、これまで現れなかっ たのです。それを試みたのが、ラシエット シャンプノワー ズでした。今日、シャンパンには幅広い選択肢があり、 同店のワインリストには、1,054種類という圧倒的な数 の銘柄が並んでいます。辛口のエクストラ ブリュ キュ ヴェから、テロワールの個性を明確に表現した極めて 生産量の少ないキュヴェ、インクのような深い色合い を持つピノ・ノワールのキュヴェなど、多様なセレク ションのおかげで、料理においても多彩な表現が 可能になり、濃厚な味わいを生み出せるようになった のです。こうして、料理を主役とし、それに合うシャン パンを選ぶ、というスタイルが取り入れられるように なりました。

この試みに、ラルマンは成功したのでしょうか。彼に対 する世界的評価を見れば、一目瞭然でしょう。彼は、 ミシュラン三つ星とゴー・エ・ミヨー(Gault & Millau) 19.5ポイントを獲得しています。ちなみに数年前、ゴー・エ・ ミヨーは、獲得しうる最高得点は19ポイントであると 発表しています。そこが評価の天井となるわけですが、 天井というのは、時に打ち破られるもの。その天井を破 り19.5ポイントを獲得したレストランは、フランスで3軒 しかありませんが、ラシエット シャンプノワーズはその うちの1軒に入っています。

ブルー ロブスター 父に捧ぐ、2015年

材料

ロブスターバター
ロブスターの殻 500g
パプリカ 5g
バター 100g

スイートペッパーのサイフォンソース
じゃがいも 250g
オリーブオイル 7g
スモークパプリカ 7g
水 250mL
牛乳 100mL
クレームフレーシュ 200g
塩 10g

ロブスターソース
ロブスターの頭 500g
オリーブオイル 10g
パプリカ 15g
はちみつ 50g
エシャロット 100g
デザートワイン 375mL ( ソーテルヌ)
クレームフレーシュ 500g

ポテトラウンド
じゃがいも 200g
ロブスターソース 100mL

ポム スフレ
じゃがいも(ビンチェ種) 6個
揚げ油(ひまわり油)

シャンパーニュ ビネガーソース
シャンパーニュ ビネガー 100mL

ナスタチュームの葉 12枚
刻んだセージ

 

作り方

生のロブスターを胴体、爪、頭の部分に分けます。爪は6分間、胴体は2分間、 湯通しします。身を取り出し、別にしておきます。サーブする直前にロブスター バターを温め直します。足を細かく刻み、飾り付けのために取っておきます。


ロブスターの殻とパプリカを弱火で炒めます。そこにバターを加え、1時間、弱 火でじっくり火を入れます。鍋の中身を濾したものを沸騰させ、澄ましバター を作り、別にしておきます。

じゃがいもの皮をむき、カットします。少量のオリーブオイルで炒めます。スイート ペッパーを加え、かぶるくらいの水を入れたら、水分がなくなるまで煮込みます。 牛乳、クレームフレーシュ(サワークリームの一種)、塩を加え、沸騰させます。 かき混ぜて濾し、カートリッジをセットしたサイフォン(泡ソースを作る調理器具) に注ぎ入れます。

エシャロットの皮をむき、カットします。ロブスターの頭をオリーブオイルで炒 めます。パプリカ、はちみつ、エシャロットを加えます。デザートワインを加えて 煮込みます。半分になるまで煮詰めたら、水を加え、1時間、弱火でじっくり煮 込みます。クレームフレーシュを加え、濾し、調味料を加えて味を調えます。


じゃがいもの皮をむき、1個は別に取っておきます。直径6cmのスライスが合 計30枚できるよう、残りのじゃがいもをカットしたら、1分間炒め、ロブスター ソースをからめます。


取っておいたじゃがいもを3mmにスライスし、さらに6cm x 4cmの楕円形にな るようカットします。135°Cに熱したひまわり油で、何度も油を回しかけながら 揚げ、最後に180°Cで1分間揚げます。塩を振り、味を調えます。


ビネガーを火にかけ、シロップのようなとろみが出るまで煮詰めます

ナスタチュームの葉をカットして、直径2cm、3cm、4cmの円形を4枚ずつ作ります。

 

盛り付け

ソースをからめた円形のじゃがいも3ピースをお皿の左側に並べ、その上に刻んだロブスター、スイートペッパーのサイフォンソース、 刻んだセージを少しずつのせます。その上から円形のジャガイモスライスをかぶせて、3つのラビオリを作ります。プレートの右側にシャン パーニュを煮詰めたソースで一本のラインを描きます。その上にロブスターの半身をのせます。その横に、1本の爪を立てるようにし て配します。ナスタチュームの葉で作った3種類の円形を散らし、3か所にポムスフレを配して、仕上げます。ロブスターソースを別に添 えてサーブします。

ラシエット シャンプノワーズ
ラングスティーヌ ロワイ ヤル(大テナガエビ)のロースト。

ラングスティーヌ ロワイ ヤル(大テナガエビ)のロースト。

「新鮮」「純粋」などという形容詞は、使い古されたものかも しれません。ですが、料理を口にした瞬間、衝動と言えるほど 強烈な反応として、それらの言葉が溢れ出てきたのです。

あらゆるレストランが、そして、あらゆるレストラン批評が 「新鮮」「ピュア」という形容詞を決まり文句のように 使っていますが、そもそも鮮度や純度の低さを謳った 料理などありません。では、これらの形容詞は、何の意味 もなさない薄っぺらで中身のない言葉になってしまっ たのでしょうか。いえいえ、そんなことはありません。そ の明らかな証拠となるのが、ラシエット シャンプノワー ズでの2度のディナーで私が取ったメモ。料理の説明 や印象を綴ったその手書きのメモには、どの料理に対 しても、大きな文字で繰り返し「新鮮」「ピュア」という言 葉が書かれています。あれこれ考えたり、表現を練った りする暇もなく、料理を口にした瞬間、反射的にそれら の言葉が溢れ出てきたのです。

「D・ヴェクタン農場のトマト/トマトウォーター」とい うラルマンのトマト料理を口にすれば、その意味がよく 分かります。夏の完熟トマトは、そのままでも十分美味 しいものですが、ラルマンは、皮をむいたチェリートマ トに、トマト コンカッセを詰めたこの一品で、トマトを 別次元へと引き上げています。拍手喝采したくなるよ うな濃厚な味わいが口いっぱいに広がるこのコンカッ セは、他では味わえない逸品です。まるで1,000ワット の増幅器で美味しさを増幅させたかのように、トマト の旨味を抽出し、これまでにないレベルにまで凝縮さ せています。その秘訣は、低温で長時間じっくり火を 入れ、トマトの真の美味しさを極限まで引き出すこと。 チェリートマトの周りには、輝くような赤いトマトのガ スパチョが注がれ、わずかに添えられたオリーブオイ ル仕立てのリンゴのスフレが異なる食感を演出してい ます。その個性に圧倒されるのが、チェリートマトの一 皿とともにグラスで提供されるペールイエローのトマト ウォーターです。その色とは裏腹に、このトマトウォー ターは、チェリートマトに詰められたピューレと同様、 (またこの言葉を使いますが)新鮮かつピュアであり、 旨味をさらに充填したかのような濃厚さがあります。さ らに驚かされるのは、現代の料理人たちが「分子料理」 と呼んでいる化学的な調理操作を、ラルマンは一切 使っていないという点です。つまり彼は、伝統的な調理 法には未知なる可能性が残されていて、主役となる食 材の真髄を余すところなく伝えることができる、という ことを証明しているのです。そこには遠心分離機など 必要ありません。

アルノー・ラルマンは、父ジャン・ピエールと同様、人生 を料理に捧げてきた人です。1975年、ジャン・ピエール は妻コレットとともに、ランス近郊のシャロン シュル ヴェルに「ラシエット シャンプノワーズ」という名のレ ストランをオープンさせました。現在の店は、そこから 10kmほど離れたランス近郊のタンクーに移転してい ます。アルノーは17歳の時、シャロンの地で仕事に就き ました。ちなみにシャロンとは、アルノーの誕生から2年 後の1976年に、父ジャン・ピエールが最初のミシュ ラン星を獲得した場所です。その後、ストラスブールのホ テル業界専門学校で学んだアルノーは、ロジェ・ヴェ ルジェ、ミッシェル・ゲラール、アラン・シャペルといっ た三つ星シェフたちの下で数年間修行し、料理の腕 を磨きます。アルノーが両親の元へ戻ったのは1996年 のこと。その時すでに両親はタンクーに移転し、ホテル レストランを営んでいました。そして2002年、まだ50歳 だった父が急逝し、アルノーは後を継ぐことになります。 そこから彼のレストランはミシュランの階段をさらに昇 り始め、2005年には2つ目の星を、2014年には3つ目の 星を獲得するに至ります。

彼は自身の料理を「コンテンポラリー」で「ピュア」だと 説明し、「モダンではない」と言い切ります。(ここでも 「ピュア」という言葉が出てきました。)つまり、分子調 理や真空調理は行なっていないという意味です。自ら が理想とする「ピュア」さに到達するため、彼はメニュー を考案する際、主役となる食材を多くとも2種類、ほと んどの場合、1種類に絞ります。だからと言って、彼の 料理は決して単純ということではありません。彼の料 理本のページをめくれば、その調理法が驚くほど複雑 であることが分かります。ただ、一見しただけでは想像 できないだけなのです。「とてつもなく複雑なものから、 とてつもなくシンプルなものが生まれる」というウィンス トン・チャーチルの有名な言葉がふと頭をよぎります。

ソムリエから提供される百科事典のようなワインリスト には、1,054種もの銘柄が分かりやすく分類され、iPad 上で検索できるようになっていますが、このレストラン で食事とワインのアドベンチャーを堪能したいなら、 一品ごとに違ったシャンパンを楽しめるテイスティング メニューを注文するのがベストでしょう。次々と供され る料理とシャンパンの完璧なマリアージュを満喫でき るのはもちろん、小さな醸造所の職人によるワインか ら、少量生産のスティルワイン、様々なスタイルのロゼ やキュヴェ プレステージをはじめとする大手メゾンの シャンパンまで、シャンパーニュ地方のワイン醸造の 多様性を楽しむことができます。ここで、大切なポイン トをひとつ。卓越したシャンパンの決め手は、泡だけで はありません。その高い品質を支える核となるのは、各 産地の一流ワイン(ブルゴーニュワインやボルドーワ イン)に欠かせない様々なニュアンス、深み、複雑さを兼 ね備えた良質なワインです。シャンパーニュ地方以外 の地域では、フルートグラスが好まれる傾向がありま すが、実はフルートグラスでは、シャンパンの魅力を十 分に引き出すことができません。ラシエット シャンプノ ワーズでは、その香りと味を余すところなく伝えるため、 赤ワインのグラスでサーブされます。この提案が広く 普及してほしいものです。

ラシエット シャンプノワーズ

さて、いよいよディナーの始まりです。まずはアペリティ フから。天気が良ければ、レストランの静かな庭園内 にある美しいテラスで提供されます。テイスティングメ ニューを選んでおけば、膨大なメニューを読んだり 選んだりしなくても、料理に合うワインが出てくるので、 庭園から吹いてくる心地よい風を感じながらゆったり 落ち着いてディナーを楽しむことができるでしょう。ス ターターはもちろん、一杯のシャンパンとひと口サイズ のオードブル(つい先日いただいたオードブルは、レッ ドペッパームースを添えた繊細なペストリー、ライスパ フとシトラスをトッピングした、ふんわり軽いパセリのス ポンジケーキ、砂糖と塩で漬け込んだサーモン、そし て、驚くほど軽いのに濃厚な味わいの薄焼きパルメ ザンでした)。

庭園でのひとときを楽しんだ後は、現代的ですっきり とした内装にベルエポック時代の壮麗なシャンデリア が映えるダイニングルームへ。ラルマンのディナーはい つも、シャンパーニュ地方の伝統を受け継ぐポテ シャン プノワーズという煮込み料理から始まります。これは、 粒マスタードでアクセントを付けた豚肉のコンフィに、 香ばしく焼き上げた丸いペストリーと歯ごたえのいい ラディッシュ、カリフラワー、カブ、ニンジンをトッピング し、野菜の旨味が詰まったブイヨンで仕上げたもの。 素朴な郷土料理を、三つ星レベルに昇華させた一品 です。

ラシエット シャンプノワーズ
ラシエット シャンプノワーズ

野菜をただの添え物としか見ていないレスト ランが多い中、ラルマンはすべての料理を野菜 に捧げているのです。

野菜をただの添え物としてしか見ていないレストラン が多い中、ラルマンはすべての料理を野菜に捧げてい ます。そのことをよく表しているのが、先程のトマトを使 った至高の一皿です。また「B・デロフル農場のズッキ ーニ スパイス仕立て」や「グリーンピースとハーブの カレー風味」なども野菜の魅力が詰まった料理の好 例でしょう。ほどよく火が入ったミニサイズのズッキー ニには、深いコクと旨味のあるパセリのソースが添えら れます。グリーンピースのディッシュは、甘い豆のソル ベの周りにほんのり温かい豆のソースを注ぎ、かすか なカレーの風味をプラスした、冷たくて温かい料理。 数粒のライスパフの食感がアクセントになっています。 凝縮され旨味を増した豆のエッセンス、深み、新鮮さ が重なり合い、見事なアンサンブルを奏でます。

甲殻類を使った二品は、彼の緻密な料理の腕を物語 っています。「ブルーロブスター/父に捧ぐ」は、その名 の通り、1978年に彼の父親が初めて作った料理を進 化させたものです。半透明になるまでほどよく火を入 れた、完璧な焼き具合の大きなロブスターテイルには、 ロブスターの爪の身を詰めたポテトラビオリが添えら れ、殻で取った出汁にソーテルヌワインを加えたコク のあるソースで仕上げられています。ロブスター好きに はたまらない一品です。「ラングスティーヌ ロワイヤル (大テナガエビ)のロースト」という料理では、シンプ ルにローストした大テナガエビの横に、一見するとマヨ ネーズのように見えるソースが添えられています。この ソースはマヨネーズではなく、テナガエビのエキスを凝 縮させた出汁とオリーブオイルを合わせ、グレープフ ルーツペッパーでちょっとスパイシーに仕上げた濃厚 なソース。一口で心を奪われる深い味わいです。

:小鳩のカイエット/ パイ包み焼き。

:小鳩のカイエット/ パイ包み焼き。

キャビアリのキャビア/ タラとポテトとともに。

キャビアリのキャビア/ タラとポテトとともに。

キャビアと言えば、シャンパンに合う食材の代表格で すが、ラルマンの手にかかれば、やはりユニークな一 品に変身します。「キャビアは前菜」という慣習にとらわ れず、ラルマンは「キャビアリのキャビア/タラとポテト とともに」という料理をテイスティングメニューの中盤 に持ってきています。キャビアとともに提供されるのは、 軽く火を通したスモーキーなタラと、雲のようにふわふ わとした温かいポテトムース。どちらもキャビアによく合 う食材を使った逸品です。とはいえ、この一皿の主役 はあくまでもキャビアであり、これら二品は最高の引き 立て役を演じています。

魚が主役の料理は「サンピエール ド プティバトー/ ポンズ クレミュー」。サンピエール(マトウダイ)は味が 淡白なので、他の食材でアクセントを付ける必要があ ります。その役目を担っているのが、深みとコクのある、 エキゾチックでスモーキーなポンズソース。そこに見事 なバランスをもたらしているのが、メキシカン タラゴン とパテ ミソをトッピングした茄子のローストです。ちな みにこのパテ ミソの原料は大豆とスイカ。味噌の発酵 香や豊かな旨味に、スイカが絶妙な風味を添えています。

父ジャン・ピエールに敬意を込めたもうひとつの料理 「小鳩のカイエット/パイ包み焼き」は今もこの店のス タンダードであり続けています。これは、アルノーが父 とともに作った最後のレシピです。概して「パイ包み焼 き」という料理には、がっかりすることの方が多く、ひど い時には、パイによって中身の美味しさが台なしに なっていることさえあります。そんな先入観を吹き飛ばし てくれたのが、ラルマンのパイでした。薄く、軽く、繊細 で、何より素晴らしいのは、サクサクとした食感が失わ れていないこと。このパイが、レアに焼き上げられた鳩 肉、フォアグラ、スイスチャードのレイヤーに素晴らし い食感をプラスしています。このパイ生地と同じく奇跡 的なのは、その横に添えられたソース。別次元の濃厚 さとコクで舌を驚かせてくれます。大量の鳩肉から抽 出したエキスをぎゅっと濃縮したような、深い旨味の詰 まったソースは、まさに絶品です。

「リ ド ヴォー/パセリのクリームを添えて」はラシ エット シャンプノワーズの定番の一品。外側は香ば しくキャラメリゼし、中はふっくら柔らかく仕上げた ボリュームあるリ ド ヴォー(胸腺肉)に、パセリで鮮や かに仕上げた肉汁のソースが添えられます。しっかりと した味わいの胸腺肉のマリアージュにソムリエが選ぶ のはクリュッグです。

ラシエット シャンプノワーズは、影響力の ある案内役・アンバサダーとして、シャンパン の真の魅力を世の中に伝えています。

ラシエット シャンプノワーズでは、デザートもひとつの ミニテイスティング メニューとして成立しています。クリ スピーで軽やかなカヌレ ド ボルドーやフルーツゼ リー、チョコレートドームが並べられ、テーブルが賑やか に彩られます。その中央に運ばれてくるのは、一段と華 やかなデザート、アマンド/ミエル。「アーモンドとはち みつ」を意味するシンプルな名前からは想像がつかな いほど繊細で独創的な一品です。パリッとした食感の コムハニー(巣蜜)と、アーモンドアイスクリーム、はち みつ、濃厚なチェリーソースという正反対の要素が、 互いの美味しさを引き立て合います。

シャンパンと言えば、つい思い浮かべてしまうのが勝 利選手たちがシャンパンをかけ合うシーン。これは、 1966年にルマン レースでフォードが表彰台を独占し たのを祝って、米国のドライバー、ダン・ガーニーが シャンパンを振りまいたことがきっかけで始まった ものです。そんな嘆かわしい慣習がはびこる中、ラシ エット シャンプノワーズは、「卓越、優雅、洗練」といっ たシャンパン本来のイメージを世の中に伝える案内役 アンバサダーという重要かつ影響力のある役割を 担っています。それだけではありません。ラシエット シャン プノワーズは、食とワインを愛する美食家なら一度は 訪れたい名店中の名店なのです。

ラシエット シャンプノワーズ
ラシエット シャンプノワーズ

Chapter 06

カロリーヌ・モレ

ジャン・マルク・モレから娘のカロリーヌへと受け継がれる、 ブルゴーニュの名高いドメーヌ

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